勘違い系○○
「梓ちゃん可愛い〜」 家族から友達からそう言われて育った私。 板倉梓。 幼い頃からちやほやされて育った私は何でも思い通りだった。 ただ一人を除いて... 「ついてくんなよ!」 小学三年のとき、幼馴染みである吉田竜聖こと『りゅー』から拒絶され私のプライドは砕け散った。 私はただ遊びたくて、りゅーが入っていた野球クラブの練習についていこうとしただけだったのに、突き放されたのだ。 今思い出しても腹が立つ。 そこまで嫌な事をしようとしたわけでもなく、ただついていこうとしただけなのにひどい男だ。 このとき以来、私はりゅーに連戦連敗中だ。 遊びに行こうと誘っても野球。 そのお菓子ちょうだいっと言ってもダメ。 勉強教えてと言っても面倒くさい。 思い返せば返すほどムカムカしてきた。 本当にこの男だけは思い通りにならない。 だから好きになったってのもあるんだけど そのりゅーに中学に入ってから変化が現れた。 私の頼み事を聞いてくれるようになったのだ! やっと私の気持ちが通じたのかと思って喜んだのもつかの間。 りゅーが女の子を呼び捨てにしている姿を目撃した。 「紗英!」 中学一年の秋だった。 りゅーとクラスの違う私は移動教室のときにその姿を目撃した。 隣のクラスでりゅーがいかにも地味な子と楽しそうに笑っている。 「あの子誰?」 私は中学で仲良くなった友達に尋ねた。 その友達はその子と同じ小学校だったようで詳しく教えてくれた。 名前は沼田紗英。 西小出身のいかにも地味でおとなしい印象の女子。 部活は吹奏楽部。 よくクラスでマンガを読んでいたと聞いて、オタクだと分かった。 なんでそんな奴がりゅーの隣に... 私は生まれて初めて嫉妬していた。 いつもりゅーの隣は私と思っていた。 だってどんな女の子がりゅーに近づいても、りゅーの心は動いてないって見てれば分かったから。 でも、今は違う。 あんなりゅーは見たことがない。 女の子に対してあんなに無防備なりゅー。 私にだってあんなに気を許してくれた事があっただろうか。 考えれば考えるほど、嫌な方向に考えてしまいそうで怖くなった。 でも、怖くなる反面私の心は決まっていた。 あの子を近づけないようにしなければ。 これ以上りゅーにあの子を近づけちゃだめだ。 それから、私は徹底的に邪魔する事に決めた。 でも、その苦労も一年と少しであっさり終わりを迎えた。 中学2年のバレンタインデー。 沼田紗英はりゅーにチョコを渡して、勝手に撃沈した。 何でも人づてに渡したらしく、思いっきり噂になって広まったのだ。 自分で渡す勇気もない愚かな女。 りゅーに見限られて当然だ。 私は今までの不安から解放されて、気分が良かった。 当然りゅーもそうだろうと思って、その日の部活のときに話をふってみた。 すると予想を覆す言葉が返ってきた。 「は?お前、何言ってんの。」 振り返ったりゅーの顔を見て、怒っているのが分かった。 「紗英は渡してくれただけだろ。告白された訳でもねーのに、周りの人間が好き勝手騒いでんじゃねぇよ。」 その日以来、りゅーの口数が減った。 一層部活に打ち込むようになり、話しかける隙もなくなってしまった。 クラス内ではいつも通りに振る舞っているように見えるけど、そうじゃないのは幼馴染みの私だけが分かる。 そう、私だけがりゅーを知ってる。 これからもりゅーの側にいられるのは私だけだ。 私だけなんだ。
『勘違い系○○〜勘違い系幼馴染み〜』 板倉梓 |