勘違い系○○

 





「でね!何だか心がギュッてなるんだけど、これって好きってことかなぁ?」




私の目の前で顔を赤らめながら熱弁する親友、沼田紗英。

初恋もまだの私には理解不能だ。



「マンガの情報からいくとそうなんじゃない?」



横から冷静かつオタクらしい発言をしたのはもう一人の親友、芹沢夏凛。



「そうだよね…。じゃあ、私吉田君のこと好きなんだ〜」



キラキラした目で嬉しそうに笑う紗英を見て、何だかさみしい気持ちになった。


私たちは小学生の頃からずっと三人一緒だった。
好きな遊びも、好きな食べ物も何でも共有してきた。


でも…好きな人というのは共有できるものじゃない。

いつかそれぞれに好きな人というものができるのは分かっていた。

だけど、いざその日がくると複雑だ。


ましてや私たちの中で一番おっとりしている紗英だったからなおさらだ。



私にも好きな人ができれば、変わるんだろうか?

好きな人のいない現状では想像できなかった。



「ね!麻友も夏凛も応援してくれる?」



まっすぐ私たちをみてくる紗英に押されて
思わずうなずいた。
夏凛も同じだったようで、目をぱちくりさせてうなずいていた。


「やった!ありがとう、二人とも。」


まぁ、こんなに嬉しそうな紗英を見て逆らえるはずもないのだが…





紗英の想い人は野球部男子の吉田竜聖。


人気者だけあって、人の目を惹きつける魅力を感じる。

紗英曰く、爽やかな笑顔が最高らしい。


ま、誰に対しても分け隔てなく接してる点は認めても良い

この私に対してもそうだ。

話したことは数少ないが、女子としての魅力なんてこれっぽっちもない私に対してさえ
女の子として扱ってくる。


初めて話したときは確かに面くらった。


まぁ、話題は紗英についてだったけど…


奴の態度から奴も紗英の事が好きなんじゃないかと思っていた。


でも誰にでも優しい奴だから、勘違いしてしまうと紗英が傷つく
私は冷静に吉田竜聖という男を見ようと心に決めていた。




紗英が笑顔でいられるように




私の心配は紗英と奴がクラスを離れた二年の頃から始まった。

同じクラスでもないのに人気者の吉田と自然に会話している紗英。

周りがほっとかないわけがなかった。


ましてや奴はモテる。


二年になってからそれに磨きがかかった感じだ。

周りの女子の評価によると誰に対してでも優しく気遣いがあるところが魅力的らしい。


ま、私の評価もそこだったのだが


奴に話しかけようと突撃していく女子も多い中
奴は『紗英』と呼び捨てにして、自然に紗英と会話している。


そのときの紗英の嬉しそうな顔を見ると私も嬉しくなるのだが
決まって板倉梓が邪魔しにやってくる。


私が見ててもあからさまで分かりやすいのに
気づかない奴も紗英も案外抜けている。


恋愛とは相手の邪魔までして手に入れたいものなのだろうか


板倉の乱入でいたたまれなくなったのか、紗英がこっちに逃げてきた。

そんな紗英を見て、思わずため息が出た。


板倉梓から取り返すぐらいの強い気持ちがないとこの恋は成就しないぞ!紗英!


と心の中で思ったが、成就してしまったらしてしまったで私がさみしいので内緒だ。




そしてある日紗英が言った


「私明日吉田君にチョコ渡す!!」


「え!?」


てっきり今のままの関係が続くと思っていた私は驚いて声を上げた。
紗英は決意に満ちた表情でつづけた。


「このままの関係よりもっと近くなりたい。そのチャンスは明日のバレンタインデーしかないと思う!」


「ちょっ…ちょっと待って紗英!!チョコ渡したとしても大勢の中の一人にしかすぎないかもしれないよ。
その…もし振られたりしたら、傷つくのは紗英だよ!?」


私は必死に止めた。
それもむなしく紗英の目は真剣だった。


「傷ついてもいいんだ。私の気持ち…私が大事にしたいだけだから。」


振られても受け止める覚悟ができてるんだとわかった

でも私は納得できなかった


「私は紗英が大事だよ!吉田なんてどうでもいいもん!!」


本音だった。

振られれば紗英は確実に傷つく、泣くのも目に見えてる。
でも紗英は強がりだから、きっと私たちの前では涙は見せない。

仮にオッケーだったとして、二人が付き合うなんて想像できなかった。
今の周りの反応や、あいつの友達関係からいって上手くいくなんて絶対にない

今までずっと二人を見てきたからわかる

付き合えたとしても絶対紗英は泣く日がくる


それが胸が苦しくなるぐらい嫌だった。


紗英は一度悲しそうに目を伏せた後、あの決意に満ちた目で言った。


「麻友の気持ち嬉しいよ。でも、決めたんだ。」


私に反論する言葉はなかった。




次の日




私は最後のあがきで紗英を止めたけれどダメだった。


そして最悪の結果になった。



私は今でも許していない。

周りのクラスメイトの態度もだが、当の本人の態度が一番腹が立った。

紗英がチョコを渡した後も以前のように話しかけようと、立ち止まっても奴は避けに避け続けた。

毎回紗英の残念そうな作り笑いに胸が痛くなった。


その痛々しさに耐えられなくなって、一度だけ夏凛の前で泣いた。


紗英が一番傷ついている

私が泣いても紗英の苦しさがなくなるわけじゃない

でも止まらなかった


こうなることは予想してたけど、こんなに苦しくて悲しいなんて思わなかった

こんな気持ちになるなら、もっと心から応援してあげればよかったと後悔した。



ごめんね、紗英。



これからも私は紗英を支え続けてもいいかな?

あいつへの気持ちがなくなるまで、ずっとつきあうよ

いつか以前のような紗英の幸せそうな顔が見たいから

いいよね

次に恋をしたときは全力で応援するよ








だって紗英は私の大事な親友だから…













『勘違い系○○〜勘違い系友情〜』



安藤麻友