勘違い系○○

 



私は傍観者だ。



私の親友が好きな人に精一杯立ち向かっていたとき
私は応援するぐらいの事しかできなかった。

もう一人の親友はその親友の事を考えて
何度も何度も説得したり、一緒に傷ついて涙を流したりしていたのに…



私にはその懸命さというものが抜け落ちている。



誰かのために一生懸命になる日が私にも来るのだろうか





私こと芹沢夏凛と親友の沼田紗英、安藤麻友は中学三年の冬を迎えていた。

奇跡ともいえる三年間同じクラスだった私たちは、受験勉強の追い込みのため。
近くの市民図書館に来ていた。


「あー!!ダメだ!ここあったかくて眠たくなってくる!」


麻友が大きく伸びをしながら言った。
確かに眠い…


「こういうときには外見るといいらしいよ!ほら、窓見て!!雪降ってるよ!」


いつでもおっとりしている紗英が呑気な事を言ったが
確かに外を見ると急に寒気が襲ってきた。
それは麻友も同じだったようで


「目覚めたー!!効くねーこれ!!」


そう言うと問題集にかぶりついた。
私は何だか楽しそうに勉強する二人を見て呟いた。


「こうやって一緒にいられるのもあと少しかー。」


二人の目が私の方を向いた。
ただの独り言に反応されると思わなかった私は焦った。


「へ…変な意味じゃないよ!ただ…寂しいなって…」


二人も同じことは思ってたようで、寂しげに頷いた。
そう私たち三人は見事に志望校がバラバラだった。

紗英はずっと前から決めていた西城高校 音楽科へ

麻友は兄弟が多いこともあって近くの公立高校である西ケ丘高校へ

そして私はデザイン科のある南稜芸術高校へ


三人ともこのまま行けば何とか合格できる高校だ。


「紗英はさ、ほとんど決まったようなもんだもんねー」


麻友がぼそりと言った。
紗英は音楽科なので実技試験があるらしいのだが、その実技試験はとっくに突破していた。
実技さえ突破すれば、頭の良い紗英だからまず間違いなく合格するだろう。


「気が抜けるような事言わないで!さっ、続きしよっ!!」


紗英は麻友を励まして、自分も問題集に取り掛かった。
そんな紗英をみて私は一年ぐらい前の事を思い出した。

一年前の紗英は今みたいに笑う元気がなく、周りの視線ばかり気にして過ごしていた。
というのも公開失恋のようなことになってしまい、しばらく注目の的だったからだ。

その頃の事を思えば、ずいぶん元気になったと思うけど…。

正直に言うと紗英は仮面をかぶるようになっただけな気がする。


きっとあのときの傷はまだ治ってないんだろう。


「夏凛?」


紗英の声を聴いて、私はハッと我に返った。


「何か考え事?」


「ううん。何でもない。」


紗英は周りにすごく敏感だ。
考えてることが伝わったのかと思って焦る。
心配させることだけは避けたい。


「あ、紗英。外。」


麻友が何かに気づいて声をかけた。
麻友の指さす方を見るとそこには本郷翔平が立っていた。


「そっか。もうそんな時間なんだ。」


紗英は本郷君の姿を見ると慌てて机の上の私物を片付け、席を立ちあがった。


「じゃあ、二人ともまた明日ね。」


そう言い残して紗英は本郷君のもとに走って行ってしまった。
私と麻友はそろって手を振った。

紗英は三年になってから本郷君と同じ塾らしい。
志望校も同じらしく、学校でも試験対策をしている姿をよく見かけるようになった。


「紗英、元気になって安心したよね。」


麻友が問題集に目を落としながら言った。
私は「そだね」と返して同じように問題集を解き始めた。


「私さ、最初本郷君のこと目の敵にしてたんだよね。」


ぶっちゃける麻友に私はその時の事を思い出して「知ってる」と言った。
あのときの麻友はすごかった。
紗英と話したいという本郷君に対して、敵意むき出しでぶつかっていったのだ。
麻友には悪いけど、あの剣幕は横で見ていて本当に面白かった。


「だって本郷君ってあの吉田の取り巻きじゃん!!信用できるわけないし!」


麻友の口ぶりに彼女がまだ吉田君の事を許せていないのが分かった。
確かに私もあのときは腹が立った。

噂になった途端、吉田君は紗英と話すことをやめた。
あのときは紗英の事を切り捨てたんだと思ってた。


でも傍観者だった私は、吉田君の辛そうな目を見た。
紗英をまっすぐに見つめて泣きそうな顔をしてた。

何か思うところがあったのかもしれない。

そのときから私は吉田君を許すことにした。


「でも本郷君のおかげもあって紗英、笑ってるし。
ちょっとは感謝しなくちゃなのかなー!!」


麻友の言い方に私は笑ってしまった。

きっと麻友は気づいていない。

本郷君が紗英の隣に来るようになったのは、あの日からで
紗英の事が好きだからだって事。

もしかしたら少しの罪悪感はあったのかもしれないけど
紗英の事、必死に笑顔にさせようとしてたり、一年のときは超がつく程頭が悪かったのに
紗英と同じ高校に行きたくて必死に勉強して、今じゃ紗英と肩を並べるぐらい頭が良い。

おまけに部活動も一生懸命頑張って、後輩に慕われる先輩になったりして
感じの悪かった一年のときと同じ人間だとは思えない。


「すごいな〜…」


心の声が口に出てしまった。
幸い小さな声だったので麻友には気づかれてない。

その麻友は問題集とにらめっこして悩んでいた。



私は傍観者で何かできるわけじゃないけど

どうか紗英が、本郷君が幸せな道に進めるように願った。



そして…彼も…



みんな…みんな幸せになれますように












『勘違い系○○〜勘違い系傍観者〜』


芹沢 夏凛